犯罪被害のうち、最も報道されていない被害は、経済的被害ではないでしょうか。
たとえば、40代前半の男性が、路上強盗に刺され、意識が戻らないまま3か月後に息を引き取ったケースについて、被害者の妻と子の立場から考えてみましょう。
子どもは2人、高校生と中学生です。愛する家族を失った妻と子に、被害者である夫の入院治療費や、妻が付添いのために勤めを休んだり、退職を余儀なくされた損害がのしかかります。
被害者である夫の収入が突然途絶え、妻と子の将来の生活費、子どもの教育費、家のローン等を支払っていくヴィジョンは壊れます。
加害者には、預金や不動産等の資産はなく、被害弁償は期待することができません。
加害者は、刑務所に入ってしまい、ほぼ無収入になります。
実は、このような状態にある被害者に対し、国が被害者の請求によって一定の金銭を給付する制度があり、犯罪被害者給付金制度と呼ばれています。
通り魔事件のご遺族である市ノ瀬朝一さんの私財を投げ打った運動によって、昭和55年に「犯罪被害者等給付金の支給に関する法律」(犯給法)が制定され、平成13年の改正によって金額が引き上げられました。
しかし、残念なことに、犯罪被害者給付金の性質は見舞金的なものとして捉えられており、先ほどのケースでも、支給される金額は、数百万円程度でした。
交通事故では自賠責保険から3000万円の支払が受けられることと比べると、大変に低い金額です。
平成20年4月、犯給法が改正されて「犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律」という名称になり、給付額が引き上げられましたが、まだまだ充分とは言えません。
もちろん、金銭を受け取ったところで、大切なご家族を亡くした悲しみ、ご自身が重度の後遺障害を背負っていく苦しみは、決して癒えることはないかもしれません。
しかし、だからこそ経済的な苦しみだけでも軽くなるよう犯罪被害者給付金制度を多くの方に知っていただきたいと思います。
具体的には、次のような仕組みになっています。
・対象犯罪は、故意によって生命身体を害し、よって人を死亡させ又は重傷病や障害を負わせた罪です。
・申請先は、申請する人の住所地を管轄する都道府県公安委員会です。
・給付金の種類と支給を受けられる対象となる者は、死亡・後遺障害・重傷といった被害状況によって異なります。
・後遺障害が残ったときには被害者本人に重傷病給付金と障害給付金が、重傷を負ったときに被害者本人に重傷病給付金がそれぞれ支給されます。
・死亡事案では、配偶者や子、父母、孫、祖父母など一定の親族に遺族給付金及び存命中の重傷病給付金が支給されます。
・金額は、被害者の年齢、事件前の収入額、被扶養者の人数、後遺障害や怪我の程度などによりケースバイケースです。
・但し、親族間の犯罪の場合は支給されなかったり減額されたりします。