公訴時効の廃止

殺人事件など凶悪な罪を犯した犯人でも25年逃げ延びれば、大手を振って世の中を歩くことができました。
これを許していたのが公訴時効の制度ですが、2010年に廃止され、凶悪事件に限り犯人を一生処罰可能な状態におくことが決まりました。
また、これ以外の罪についても時効期間が大幅に延長されました。

時効制度の理由は、次の4点に求められます。

1.長い時間が経過すると被害者の処罰感情が薄れ処罰するだけの価値が小さくなる
2.逃げている間に犯人が築いた静かな生活は尊重する必要がある。
3.時間の経過により国民一般の応報感情も薄れ処罰する価値が低下する。
4.時間の経過により証拠が少なくなり、正しい裁判ができなくなる恐れがある。

しかし、よく考えてみますとこの理由が正しいのか疑問が浮かびます。

5.被害者はいくら時間が経過しようと被害感情が薄れることはありません。
6.犯人が犯罪後に築いた生活をなぜ保護する必要があるのでしょうか。
7.時間が経過しますと一般の人々の事件の記憶は薄れますが、処罰すべきとういう感情が薄れることはないでしょう。
8.証拠が少なくなりますと有罪とすることは難しくなりますが、ご承知のとおり有罪を証明する責任は検察官が負っており、証拠が少ないことは検察官に不利益に働くだけです。

このように制度の理由をみますと、犯罪被害に苦しみ悩み続けている被害者に対する目線や国民の常識が欠落していたことがわかります。
時が経過すれば被害者の処罰感情が薄れるというのは、犯罪に遭わず幸福な社会生活を送っている者の言い分でしかありません。
大切な人を失ったり、重い後遺症を負った被害者やその家族の無念さ、悔しさ、怒りはどんなに時間が経っても癒えることはありません。
また、犯人が逃げ回っていたときに築いた静かな生活を保護することは、被害者に対して犯人が再び目前に現れることの不安にさらすことを意味します。
被害者の安全な生活の犠牲にして犯人を保護する必要などありません。

2004年に成立した「犯罪被害者等基本法」により、被害者の尊厳にふさわしい処遇が保障されましたが、これらにより徐々に国民の意識が変化し、殺人など凶悪な事件においては事件の真相を明らかにして刑事責任を追及する機会をより広く確保すべきであるとする考えが定着し時効廃止(刑事訴訟法の改正)に結びついたといえるでしょう。