日弁連新聞の会長インタビュー記事に異議あり

今月発行の日弁連新聞の会長インタビュー欄に、昨年10月に福井で開催された人権擁護大会での様子が述べられていました。
当フォーラム所属の川上賢正弁護士は、この会長インタビュー記事に異論を述べ、日弁連新聞に抗議文を送付しましたので、本サイトに掲載します。
平成29年2月6日

日弁連新聞(No.516)の「新年会長インタービュー」への意見

福井弁護士会 川上賢正

私、福井弁護士会所属の弁護士であります。犯罪被害者支援をする弁護士グループであるVSフォーラムのメンバーでもあります。2016年10月に開催された福井での人権大会に参加した地元の弁護士として、いてもたってもおられず、今回筆をとりました。
今回の日弁連新聞に掲載された新年会長インタービュー記事の「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」についてのくだりであります。
日弁連は、2016年10月の人権擁護大会で「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」は、過去の死刑確定事件で、再審無罪が相次いだこと、死刑廃止国の増加などを理由に挙げ、国に対し刑罰制度全体を改革するなかで、死刑制度とその代替刑についても検討することを求め、「2020年までに死刑制度の廃止を目指すべきである」としています。

私は、福井での人権大会で、犯罪被害者支援をする弁護士の立場から、死刑廃止決議については反対であると意見を申しました。
殺人事件の被害者などの被害者の声を聞くと、圧倒的多数の被害者が死刑を望んでいます。また今日の世情で悲惨な殺人事件などを考慮して、世論調査でも8割の国民が死刑制度を存置するという意見の中、国民世論を無視する今回の死刑廃止宣言については、撤回を求めるものであります。
この人権宣言は、弁護士総数のうち、わずか出席議員786名、賛成546名、反対 96名、棄権144名で採択されたもので、死刑制度という弁護士によって意見がわかれる重大案件について、日弁連の総意として、死刑廃止と宣言していいのか、基本的に疑問が残ります。(ちなみに、被害者支援団体がおこなったシンポジウムでの弁護士へのアンケートでは、死刑存置論の弁護士が圧倒的多数におよんでいましたし、そして人権大会直後にある媒体が弁護士に対して行ったアンケートでも、死刑存置が過半数を占めました。)

ところが、日弁連新聞では「犯罪被害者遺族や支援に取り組んでいる会員各位からも、貴重なご意見をいただきました」としかかかれていません。あれだけ、多くの峻烈な批判の意見が噴出して、予定した時間を2時間もオーバーして、最後はその場での多数決だけで可決したにもかかわらず、そのことには一切触れられていません。一部の新聞では「賛否渦巻き紛糾」とまで報道されています。ただ「貴重な意見」との一言で、スムーズに可決したように述べるのは事実を隠蔽しています。
そして、私がもっとも危惧する点は、日弁連はこれまで犯罪被害者の声を無視してきたことです。会長インタービューでは、「より一層犯罪被害者、遺族の方々の声に耳を傾け、十分な支援を行うととともに、国民の中で死刑廃止等についての議論が深まるよう努力し、宣言の実現に全力を尽くします」と結んでいます。

会長が、犯罪被害者の声を聞いていただくことについては賛成です。日弁連は被害者の声をこれまで聞いていなかったことを素直に謝罪してほしいとおもいます。これまで犯罪被害者の声をどれだけ聞いていたでしょうか。
その象徴的なできごとが、平成20年1月に被害者参加制度が立法化された中で、日弁連会長声明で「被害者参加制度は将来に禍根を残す制度である」と述べ、導入に強硬に反対しました。この声明はいまだに撤回されていません。まずもってこの声明を撤回すべきです。
また、平成27年10月、全国の単位弁護士会に対し、被害者参加への対応方法として、「(死刑相当事件の)否認事件や正当防衛事件等では、参加そのものに反対すべきである。」としている手引きを配布しています。このことも、日弁連が被害者支援に後ろ向きであり、いまだに日弁連は、被害者の心情を顧みない刑事弁護に偏っているといわれることの証左であります。
日弁連会長が被害者の声に耳を傾けるというのであれば、まずはこのことから初めていただきたいと思います。

日弁連新聞会長インタビュー記事への抗議文