グーグル削除請求事件最高裁判決に関する意見書

意 見 書

平成29年2月27日

犯罪被害者支援弁護士フォーラム(VSフォーラム)
共同代表 弁護士 杉 本 吉 史
同 弁護士 山 田   廣

第1 はじめに
当VSフォーラムは、平成22年に設立された犯罪被害者の支援や権利を擁護することを目的とした弁護士集団である。
平成28年(許)第45号投稿記事削除仮処分決定認可決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件(以下「本件」という。)につき、最高裁判所が平成29年1月31日にした決定(以下「本件決定」)に関し、以下のとおり、意見を述べる。

第2 事案と本件決定要旨
1 事案の概要
本件は、児童買春で逮捕歴のある男性が、インターネット検索事業者を相手方とし、当時の記事が検索されないよう、URL情報を削除するよう求めた事件である。
2 下級審の経過
一審は、男性の「忘れられる権利」を重視して、削除請求を認めたが、二審は、検索事業者の表現の自由と、この自由が公衆の知る権利を支援する役割を果たしていることを重視して、削除請求を退けた。
3 本件決定要旨
最高裁判所は、検索事業者による検索結果の提供行為が、検索事業者の表現の行為であり、この自由が公衆の知る権利を支援する性質等があることをふまえ、「検索事業者が、ある者に関する条件による検索の求めに応じ、その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは、当該事実の性質及び内容、当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度、その者の社会的地位や影響力、上記記事等の目的や意義、上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化、上記記事等において当該事実を記載する必要性など、当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので、その結果、当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、検索事業者に対し、当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である。」と、削除に関する基準を示した。
本件決定は、児童買春の被疑事実で逮捕されたことはプライバシーに属する事実であるが、児童買春が児童に対する性的搾取及び性的虐待と位置付けられており、社会的に強い非難の対象とされ、罰則をもって禁止されていることに照らし、今も公共の利害に関する事項である旨を述べ、削除請求を退けた。なお、現時点では、児童買春事件自体からは6年が経過しており、公訴時効期間の5年を越えている。

第3 当フォーラムの意見
現代では、インターネットはインフラとなっており、「犯罪をしたらインターネットに長期間名前が残る」リスクがあることは、誰でも分かることである。たしかに、犯罪者にとっては、逮捕歴・前科などは、プライバシー情報である、しかし、犯罪者は、自らそのリスクを乗り越えて犯罪を行ったことを看過してはならない。
他方、善良な市民にとっては、逮捕歴・前科情報がインターネットに残ることにより、安価・迅速に意思決定の材料を入手し、犯罪被害に遭うことを未然に防ぐことができる。例えば、投資の勧誘を受けた者が、勧誘者の名前を検索した結果、逮捕歴があることがわかれば、それをふまえて、投資をするか否かを判断することができるのである。また、児童買春での逮捕歴や、その他の性犯罪の履歴がある者に対しては自衛手段をとろうと考えるのが一般であろう。
なお、本件において、男性は、児童買春の公訴時効が5年であることもふまえ、社会的関心の風化を主張していたが、公訴時効は単に訴訟条件の問題に過ぎず、これを経過しているからといって安易に削除を認めるべきでない。本件決定が、公訴時効期間を過ぎてもなお、個別の事情を比較衡量した上、「当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合」に限って削除を認めると判断したことは至極当然である。
当フォーラムは、本件決定が、善良な市民の知る権利に配慮を示したものとして高く評価する。

以 上